人工知能とえどう付き合うか ~不屈の棋士~

2015年10月、情報処理学会が「2015年、コンピュータ将棋がプロ棋士に追いついた」と宣言をし、話題となりました。本当に追いついたのかどうかは判断は難しいが、羽生善治さんはコンピュータ将棋の能力を、「ウサイン・ボルトくらいの強さ」と表現しています。そんな中、プロ棋士人工知能にどう向き合っていくのか、11人のプロ棋士のインタービューを通じ、その様々な思い、葛藤が本書には描かれています。

不屈の棋士 (講談社現代新書)

不屈の棋士 (講談社現代新書)

人工知能と言えば、先日「人工知能の核心」を読んだところだ。人工知能が思った以上に進化しており、当分は難しいと言われた、コンピュータ囲碁がトップ棋士に勝ってしまった。
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将棋と言えば、誰もが知っている高度な知的ゲームである。プロ棋士であれば、誰よりも強いことがその使命と思われるが、コンピュータ将棋の進歩により、それがゆらぎつつある。ただ、本書の中ではコンピュータとの勝負より、強くなったコンピュータ将棋を、自分の棋力向上に利用できるか、という視点の話しが多くを占めていた。強いんだったら、それに教わればいい。しかもコンピュータなので、相手の都合に関わらずいつでも利用できる。いいことばかりのようだが、そうすんなりとはいかないようだ。

人工知能を棋力向上に利用しているかどうかは人それぞれだが、利用している人でも人工知能と練習で対局することはほとんどなく、特定の場面を解析させる程度の使い方がほとんどのようだ。しかも解析で評価値が高い(つまり、コンピュータが良いと判断した)であってもすぐには採用せず、考えた結果使えると思った手しか利用しないようだ。意見を伺うだけで、最終的な判断は皆自分の頭で行っている。

人工知能に頼る弊害として、皆が口を揃えるのが「自分の頭で考えなくなる」ということ。簡単に良い手が分かるので便利だが、その時は良くても、長期的には棋力低下につながるということだろう。棋士たちはプロとしての感覚で、それを感じ取っているようだ。特に若いうちから人工知能に頼ることは、危険とも書いている。

電卓が普及した現在、仕事での計算にそろばんを使う人はもう少ないだろうし、これからそろばんを使う人がこれ以上増えるとも思えない。便利な道具がいったん浸透すると、もう戻ることはできない。医療やリハビリテーションの世界も同様で、根拠がしっかりした、効率性の高い道具や方法論を否定しつづけることは得策ではないと思う。ただ、それと同時に、頼りすぎることに良くない側面があることも知っておかないといけない。食わず嫌いはいけないが、新しいものとどう付き合うのかは、個人個人で責任を持って考えていかないといけないであろう。