最近柔道を再開したこともあり、興味本位で読んでみた。柔道は格闘技なのでケガは多いとは思っていましたが、死亡事故がこんなに多いとは思ってませんでした。しかもその大部分が、頭部打撲による急性硬膜下血腫だとは。一方、日本に比べて柔道人口の圧倒的に多いフランスでは、死亡事故はほとんど起きていない。これは柔道の競技特性以上に、日本独特の問題が大きいようである。

- 作者: 内田良
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2013/06/21
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (11件) を見る
著者の内田良さんは、もともと柔道事故を調査していたわけでない。学校での死亡事故を調べていたら、柔道での事故数が圧倒的に多かったため、柔道に焦点を当てて調べを進めていかれたようだ。私も「柔道はそもそも危険なスポーツ」との認識があったが、そんな簡単な問題ではないようだ。十分に受け身ができないのに、「稽古」と称して無茶な乱取りを行う、脳震盪を起こしても練習を続けさせる、などの海外ではあまり見られない、日本柔道の文化的な背景が関係している。
私は医師ではありませんが、脳外科病院で勤務したことあるので、急性硬膜下血腫のことは知っている。できるだけ早急な手術が必要で、手遅れになると死に至る危険な病態である。しかし、早急に手術をすれば後遺症も少ないので、そこが脳卒中とは大きく違う。大事なことは「繰り返し頭を打たない」ことと「早急に医療を受ける」の2点に尽きる。ただし、症状が出るまでは急性硬膜下血腫かどうかの判断は難しい。だから、「脳震盪」への対応が重要となる。
2014年にフィギュアスケートのグランプリシリーズ前に、羽生結弦選手が練習中に他選手と衝突する事故がありました。おそらく脳震盪かそれに近い状態だったと思われますが、結局は強行出場しました。これを美談のように書くマスコミもありましたが、これがダメなんです。本人がいくら出場すると言っても、コーチやドクターがストップするべき、または競技ルールに「脳震盪を起こした場合、出場できない」などと明記するべきと思います。これは本人の問題ではありません。
allabout.co.jp
一方、日本が大躍進をしたラグビーワールドカップでは、山田選手が脳震盪を起こし退場しました。そしてその後は競技復帰のための細かな取り決めがあり、選手が出たいといっても出れないようになっています。ワールドカップのような大きな大会でも、強行出場はできないんです。高校ラグビーでもルールが厳密に決まっており、ドクターストップにより大事な試合に出れない、ということもあるそうです。
rugbydiary.net
本書が出版されたのが2013年。内田先生の取り組み等もあり、2012~2014年は柔道での死亡事故ゼロが続いていた。
bylines.news.yahoo.co.jp
しかし、2015年には死亡事故が発生してしまう。しかも、内田先生が分析の中から見出した、「典型的」な形で起こった。
bylines.news.yahoo.co.jp
柔道特有の問題として、受け身の不十分な初心者が、どの時期より大外狩り等の危険な技をOKとするかは検討しないといけない。しかし、スポーツ一般に対して、脳外科学会が提示している提言は、指導者だけでなく競技者の保護者・家族も知っておくべきと思います。提言の具体的内容は以下の通りです。