臨床作業療法2016年5・6月号 ~あの手この手の就労支援~

復職には作業療法士として関わりたい部分である。しかし、積極的に関わろうとすると、職場へ出向いたり職場の上司と話したりと、普段の業務から外れることが要求される。また、ジョブコーチなど復職を援助してくれる関係職種との連携も重要だ。病院などで臨床を行いながら復職に関わっている人って、どうやっているのか、気になる部分ではある。

臨床作業療法 2016年 06 月号 [雑誌] (あの手この手の就労支援)

臨床作業療法 2016年 06 月号 [雑誌] (あの手この手の就労支援)

今号では、脳卒中後の高次脳機能障害に対する取り組み事例が多いが、発達障害精神障害など多様な事例を紹介している。どの領域でも復職への社会的システムが整っているわけではなく、関わっているOTが模索しながら、時には全体のマネジメントまで行っていることもある。マネジメントまで行うということは、それを行うキーパーソンが不在なのだろう。

高次脳機能障害者の就労と言えば、以下の本を思い出す。当事者のコウジさんは麻痺はないが高次脳機能障害の症状はかなり強く、普通に考えると就労は難しいだろう。それでも就労できたのは奥さんの尽力が一番大きいが、受け入れてくれる職場に恵まれたのも一因だ。社会資源の活用の重要性を強く感じた。

日々コウジ中―高次脳機能障害の夫と暮らす日常コミック

日々コウジ中―高次脳機能障害の夫と暮らす日常コミック

本書の特集では、各執筆者が対象者との取り組みの中で、気づいたことや課題などを提示している。おおざっぱに書くと以下のようなことだろう。

  • 就労を希望していても、「何のために」をしっかり確認したほうがいい。経済的な理由かやりがいか、によって関わり方も変わってくる。
  • 就労に関する社会的資源は整っていない。入院中に関わっている場合は、退院後どこにつなぐかも意識しないといけない。
  • 就労して終わりではない。いろんな問題が出てくることが多く、その対応策も時にはいっしょに考えたほうがいい。

特集ではないが、「レストランOT奮闘記 ~汗と涙の就労支援」という就労関係の新連載が今号から始まっている。これは企業の中のOTとして障害者雇用とどう関わったかの記録のようだ。著者は「非効率的で経済活動に置いていかれた~」などと書いている。これは企業としては当てはまるかもしれないが、社会全体としてはそう思わない。

障害者雇用としては、チョークの製造等を行っている「日本理化学工業」が有名だ。この日本理化学工業の大山 泰弘会長がスピーチの中で、「もし重度の障がい者を施設で保護するとしたら、十八歳から六十歳の四十二年間で一人二億円以上の公の費用がかかっていることから、企業で定年まで働くことができれば、これで財政支出の二億円削減の貢献ができるのです。」と話しています。障害者雇用を進めることは、社会全体のメリットは大きい。と考えられるでしょう。
www.rikagaku.co.jp

臨床作業療法をじっくり読み始めて気づいたことがある。名前に「臨床」とついているだけあり、学術的というより臨床的な内容が多い。しかし、ハウツー的な内容が書かれているわけでもない。それよりも、ある程度の臨床経験を有したOTが臨床の中で、どう思い考えて対象者に取り組んでいるのか、OTの頭の中を覗き込むような雑誌だなあと思いました。