リハシステム稼働から1週間

 今年1月より当院のリハビリ管理システム、オーダリングシステムが同時更新されました。特にリハビリシステムは新しいメーカーのものになったので、かなり大きな変更となりました。私はリハビリ科のシステム担当者として関わりましたが、この経過の中で思うこともあったんです。実は、システム構築には「見えない部分が、一番大事!」なんです。

 

システム障害はなぜ起きたか~みずほの教訓

システム障害はなぜ起きたか~みずほの教訓

 

 

  まずシステム構築に際し、知らないといけないことですが、コンピュータが得意とすること、苦手なことがあることだと思います。多くの人が「コンピュータが入ると便利で、楽になる」と思ってるんだけど、決してそんなことはなく、実際は面倒なことが増えてしまうんです。コンピュータの得意なことは、単純な計算の繰り返し(集計など)と、検索(患者さんのデータを探す)の大きくは2点。それに加え、距離の問題がなくなる(どの端末からでも見える)ことも病院システムでは大事になる。それ以外の、例えば人がデータを入力する方法って、改善されたとは言え基本的には使いにくく、コンピュータは苦手と思ったほうがいい。だからコンピュータにデータを持たせるのは、上に書いたメリットが大きいものに限定するのがいい。

 

 リハビリの診療記録では自分で絵・図を書くことも多いが、そういうものはコンピュータでは扱いにくい。スキャナで取り込んだりマウスで描いたりすることもできるが、上記に書いたメリットはさほど大きくなく、デメリットの方が大きいと私は考える。そもそもそんな風に複雑なものを導入すればシステムはどんどん複雑になり、不具合が起きたりバージョンアップの時に問題が出たりする。よって私はリハビリに関するデータの持ち方については、以下のように考えてます。

 

  • 院内共有情報としてのリハビリ記録は、文字情報(画像や計算できる数字でなく)で良い。検索は、患者さんが見つけられれば十分。その中に記載されている内容までは要求しない。
  • 上記以外で院内で共有したい情報は、本当に必要なものに限定する。例えば、ADL評価は院内で共有したい情報ではあるが、FIMであれば合計点だけでいいのか、詳細な項目情報が必要なのか、評価点を数字として必要な(集計などの計算するか)などが検討事項となる。「後から便利なように」と何でもできるようにするのは、システム構築も大変だし、何と言っても入力が大変。
  • 数字として持たせるのは、日報・月報など、計算が必要な情報のみで十分。
  • 距離の問題がない(院内共有が必要ない)もので、検索・集計が必要なものはExcelに入力する方法でも結構十分だったりする。それも必要ないもの(例えば手元に置いておけばいい評価表や描いた絵など)はそもそも紙でも良い。

 多くの人は、システム導入するのなら、何でもシステムにやらせようとする。でも、人の要求に応えて複雑にすると入力も大変ですが、最も大きな問題はシステムもの不具合につながることだと私は考えます。システムは動くのが当たり前と多くの人が思ってますが、安定動作させるのって結構大変なことなんです。システム再起動さえできない常時稼働のシステムならなおさらです。

 

 システムは安定動作(止まらないこと)が一番優先度が高い。その次に共有したい情報が入力できること。それを実現するためには、パッケージシステムであれば極力カスタマイズは避ける。入力のインターフェースくらいならいいが、特にデータ構造は変えないようがいい。

 

 もう10年以上前になりますが、3銀行が合併して「みずほ銀行」になった時、大規模なシステム障害が起きました。マスコミからはさんざん叩かれてましたが、本質的な問題は、「組織のトップが、システム安定稼働のことを軽視していた」ことにあると思います。システムは止まった時にこそ、安定稼働のありがたみが分かります。「このシステム、使いにくいなあ~」なんて言っている時は、だいたい安定稼働しているんです。「安定稼働って大変なことなんだ」ってより多くの人に理解してもらえれば、システム作りはより良いものになるんじゃないかと、一人で思ってます。

 

Amazon.co.jp: システム障害はなぜ起きたか~みずほの教訓: 本: 日経コンピュータ

10年以上前の本ですが、本質的には今もあまり変わってないです。システム障害は技術の問題でなく、組織の問題で起こります。

Amazon.co.jp: うちのシステムは

SE側から書いた、システム構築に関する本。SEと関係を取っていく必要がある人には一読してもらいたい。

 

【追記】ご意見いただいた上記以外のメリットを、意見を含め書き加えました。

  • 膨大な情報記録が小スペースで可能である。これは数字・文字情報だけであればほぼあてはまるが、画像・動画が入ると微妙となる。PACS(検査画像データのシステム)では、画像の解像度を慎重に決めないと、枚数が膨大なだけに大がかりな記憶媒体の追加が必要になる。以前働いていた所では、胸部レントゲンは診断上画像を粗くできないのでPACSに入れなかった。いずれにしても、膨大なデータを小さなスペースで保存できるため、カルテ庫などのスペースは節約できる。
  • 消去が一瞬でできる・できてしまう。これは電子媒体一般に言われますが、実は電子カルテにおいては、真正性(書換、消去・混同、改ざんできない)が必要なため、普通の操作では消去できない。編集した場合は見た目に変わるものの、データとしては履歴を含めて保存されている。診療録以外の部分では消せますが、逆に簡単に消せてしまうデメリットのほうが大きいように思います。